今年のお正月休みは気分が晴れるような本と、考える本を読んだ(読んでいる)。
『そしてバトンは渡された』と『ツバキ文具店』は平明な筆致でストーリーを無理なく運ぶ。
バトン~は登場人物それぞれの描かれ方が丁寧だ。
ツバキ~は鎌倉(特に美味しいもの)案内にもなっている。
どちらもハッピーエンドで、心に負担なく読める。
『塩を食う女たち』はしなやかで重厚。語られている言葉は、実体験を通した具体的なものが多いが、しばしば深く掘り下げられ思想化に近づく。まだ消化しきれていない。今後も読んでいきたいと思う本。
『FACTFULNESS』はハンス・ロスリング(スウェーデン出身の医師・公衆衛生学者・教育者)による著作。ロスリング氏のTEDでのプレゼンテーションは一度ならず行われたそうだ。
非常に興味深い内容だ。
「今の世界のありよう」が、信頼できるデータではなく、思い込みによって描かれやすいことを知らせてくれる。
原題は Factfulness: Ten Reasons We’re Wrong About The World – And Why Things Are Better Than You Think
「思い込み」は10の本能として分けられている(分断本能、ネガティブ本能、直線本能、恐怖本能、過大視本能、パターン化本能、宿命本能、単純化本能、犯人捜し本能、焦り本能)。思うに「物事は白黒ではなく、多面的重層的である。よく見てよく考えよう。」ということは、様々な形で伝えられている。だから、著者の言うことに目新しさはない、と思う人もいるかもしれない。
この本のいいところは、時代に関わらず人は思い込みやすい生き物であること、いつの時代も繰り返し注意は必要ということ、を今理解されやすい言葉で希望を持って示しているところだと思う。10の本能への注意は、インターネット社会の抱える問題である「フェイクニュース」「扇情」「誇張」などに対する心構えとしても有効だ。
そして「データが示す今の世界のありよう」と「思い込みやすさを戒める古来の教え」を掛け合わせ、網羅したところが新しいと思う。
「教育」の観点からも示唆に富む。二つ挙げる。
一つ目は、「先進国」「発展途上国」(英語ではdeveloped countries, developing countries)という分け方ではなく、4つの所得レベルで人口分布を考えること。
二つ目は、「民族衣装でその国のイメージが固まることがある」ということ。文化交流のようなイベントで歴史や文化を楽しむ場合は良いが、「その国のごく一部」と意識する(させる)ことは大事だろう。子どもたちには民族衣装より、著者らが作った「ドルストリート」というウェブサイトを見せてほしい、という提案があった。これもまた「その国の一部」ではあるだろうが、独創的な取り組みだと思う。日本が入っていないのが残念だ。
https://www.gapminder.org/dollar-street/matrix
世界の事実=fact を知った上でどのような判断をするか、それはまた別の問題。
よりよい世界を作るほうに、人は動こうとするものだと信じたい。